怒ったかんな許さないかんな俺に逆らうとこうだかんな。 NOVEL Darkness 4

NOVEL Darkness 4

怒ったかんな許さないかんな俺に逆らうとこうだかんな

人との約束を破るのは最低最悪な行為だ。 俺、前田悟は嘘や騙されることが大嫌いだ。 しかしそんな俺の親友であり幼馴染みであり、竹馬の友のような腐れ縁っていうか、ベストフレンドというか、もう大好きな俺の友人富岡 時雨は 嘘や人を騙すのが大好きな最低くそ野郎だ。 おまけに暴力ふるし、俺のことバカにするし、 女の子にはモッテモテ。 はー、コンチキショーメ!けっ。 でもたまに優しいし、約束守らないけど でもかっこいいし、約束守らないけど でも頭いいし、約束守らないけど でも運動もできて、約束守らないけど なにもかも完璧な俺の自慢の幼馴染みだ (約束は守らないけど。 ) だからたまに不安になる。 俺たちほんとに友達か? もしかして時雨くんは俺のことを嫌いなのかもしれないと。 たまに、たまにだけど。 そう思う。 下にアンケートあるのでよかったらご協力ください。 2章は月曜日更新します。 [chapter:第1章] 人との約束は大切なものだと俺は思う。 約束を破られたり、軽く見られていたりすると悲しくなるし、怒りたくなる。 それに、約束を忘れているのなんて論外。 あり得ない。 もうそんな人とはえんがちょしちゃうくらい俺はショックを受けたのだ。 約束を破られた瞬間、 俺はただ呆然とその背中を眺めることしかできなくなり、頭のなかは真っ白になっていろんなことをぐるぐる思考させていたらいつのまにか不良で有名な田中くんにぶつかって怒鳴られて怖くなってまた落ち込んでしまうくらい俺は悲しかったのだ。 許せない。 断じて許すまじ…… 富岡時雨! とみおか、しぐれ。 そう、俺と約束をしたあの甲斐性なし野郎! 最低!最低! 今日は俺と一緒に帰るって言ってたくせに! くせにぃーーー! なんとあいつは学校一の美少女! みんなのアイドルである五月美玲さんと一緒に帰ったのだ。 しかも腰に手を回してたんだぞ! 破廉恥な!うらやましい! じゃなくて、裏切り者!! 俺は絶対許さない。 今度こそはほだされない。 負けない。 負けないぞ、 負けてたまるか! このフツメン代表、前田悟が…… あ、読める?まえださとるが! あのイケメンくそ野郎!うらやまっ!時雨くんを! 成敗してくれるわ! にんにん! 「ふーん、まぁ、ご託はいいからかかってこいよ?」 ここは俺の家です。 前田の表札があるはずです。 まさかだとは思うが俺のお隣さんの富岡と間違えたのかな? まあ?富の字に田んぼの田があるものね。 間違えることはあるよねーあはは。 でもさ?百歩譲って表札を間違えるのはいいのだ。 別にいい!このおバカさんめっ!と小突いて笑い合う良心くらい俺にはある! なんで俺の家の俺の部屋の、俺のベッドで寝転んで どうして俺のうす塩ポテチをバリバリ食べているの? なぜ俺の漫画を読みながらリラックスしてやがるんだ!!富岡時雨ええええぇぇえぇ!!くん! 「俺がお前に勝てるとでも思っているのか!負けるとわかっている戦に出るようなバカではありまっせーん!まずは警察に不法侵入届けを出して!」 「おばさんにいれてもらったんだけどなぁー」 あんのくそバ!っ、ゴホン、お母様!!! 「いや、成敗!とか言ってたから一発殴って俺に逆らうみたいなバカでおろかな行動を止めてあげようと思ったけど、案外賢いんだね。 ご褒美に殴ってあげるから歯を食いしばれ。 」 「ひいっ!どっちにしたって殴られるのかよ!ごめんなさい!お助けえぇ!」 「本当雑魚だよね悟って、雑魚は雑魚らしく踏まれて死ね。 」 「俺はクリボーじゃないかんな!ていうか幼なじみに対して死ねとか言ってはいけません!」 いや、幼なじみ以外にも言ってはいけないのだが…… この見栄麗しゅう見た目に反して発せられる毒が強烈な青年、富岡時雨くんは フツメン代表前田悟と幼稚園児からの付き合いの幼なじみなのだ。 それなのに死ねとかー、ちょぉー!ひっどぉいー! 「え?幼なじみ?え、どこどこ?」 回りをキョロキョロと見渡す時雨くん。 「いやここ、ここ、」 自分に指を指してそう言うが時雨くんは『どこー?』とうろちょろしてた。 この家にはお前と俺とお母さんしかいないんですけど わざとやってますよね? まさか、お母さんと幼なじみとか言わないよね? 俺、信じてるよ。 時雨君と俺の絆、あるって信じてるよ!? 「え。 みえなーい。 悟邪魔どいてくれまへん?」 「なにそのますきにーみたいな口調!お前平成生まれの東京育ちだろ!」 「うるさい黙れ田舎者。 」 「なんだと!きぃーっ!生まれたのがちょっと自然な場所だっただけですぅー!育ったのは東京だしー!」 「はいはい、そうだね。 で?どこー?まさかエアー?やめてよ悟じゃあるまいし」 「いや俺だろうが!てかなに悟じゃあるまいしってなに?俺はエアーな幼なじみがいるとでも!?偏見だ!」 「え、ちょ、冗談やめろって悟さん、俺とお前は他人同士だって、いい加減空想の世界から抜け出せよ警察呼ぶぞ」 「他人同士なら家に来たりしませんけどぉぉ!?」 「はっ、俺が無理矢理連れ込まれたとでも言えば丸々とおさまっちまうんだよ。 」 「ど、どす黒い……いや!そんなことできない!俺には証言者がいる!そう!俺のお母さん!」 「はっ、バカめ。 お前の母さん単身赴任じゃん」 「あっそうだった!てへっ!ってお前ええぇぇぇ!」 「は?お前?お前にお前って呼ばれる筋合いねぇよ」 不機嫌そうに顔を歪める時雨くん。 怒っててもかっこいい。 もうなにもかもどうでもよくなるよね、これぞフェイスマジック。 「時雨くんだってお前って呼んだ」 「お前と俺の格が違うのわからない?このモブ!」 「最低!自分がイケメンだからっていっていいことと悪いことくらいあるんだからね!」 時雨くんは何度も言うけどかっこいい。 あのね、めっちゃかっこいい。 コーヒーみたいな濃いめの茶髪でふわふわの天然パーマで 祖父が外国人でクォーターとかなんとかでコバルトブルーな瞳が大きくて宝石みたいに綺麗で 肌荒れの三文字を知らないかのような真っ白いすべすべな肌。 ゆるりとした形のいい唇と鼻筋がスッキリとした彫りの濃い顔立ちで、 いや、へんにゴッテゴテではないんだけど、 なんかハーフぽい日本人男児みたいで、いわゆる醤油顔というのだろうか? まぁ、そんな感じで体型もすごい。 もうモデルでやってけるよ!ってくらい背が高くて腰とか細い。 でもなよなよしている感じじゃなくてほどよく筋肉もついていてスタイルもいい。 まぁ、わかるよ? これくらいかっこよければ俺みたいなしおしおしい俺の顔なんか、黒髪黒目の真新しさの欠片もない中肉中背体型の俺なんか! 俺なんかぁぁぁ! 「イケメンはなんでも許されるんだよ。 」 フッ、と鼻で笑う時雨くん。 「きぃぃぃーっ!性格悪いくせに!」 「そんなところもステキ!って女子は言うからなー」 「ただし、イケメンに限る。 」 「ほんと、顔がいいと得だよねー」 「いや、お前たちは人間の内側という美学を忘れているのだ!そんな生き物だ!」 「負け惜しみとかやめてよ笑ってへそで茶が沸かせちゃうって!」 「ああ言えばこう言う!」 「言われなくても俺は選びたい放題だからね。 綺麗で性格がよくて都合のいい女なんていくらでも手に入れられるよ?ほんと、フツメンって損だよなー」 この男最低!騙されてますよ! 「むっかつくーー!お前のどこがいいんだ!」 そう言うと時雨くんはじっと俺を見てきょとんと首を傾げた。 「顔?あと頭もいいし」 「それ自分で言うか。 」 「運動神経もいいし。 」 ツッコミをいれたのにスルーされた。 ちょっと悲しくなったぞ。 とついでに思ったことがある。 「あ、そうだよ。 なんでお前部活入んないの?」 中学では入ってたのに。 しーーん……と沈黙が続いた。 ぴたり、と体を硬直させた時雨くんは静かに黙って俯いた。 き、聞いてはいけなかったことだったのだろうか。 誰しもナイーブなところはあるだろう。 でも少し気になったのだ。 時雨くんは頭もいいし、運動神経もいい。 時雨くんはなんでもできる才能を持った天才で 中学の頃は美術部に所属していたのだ。 少し以外だったが、時雨くんはなんでもできるから絵だってとってもうまかった。 周りには人がたくさんいて、そのなかで一人絵を真剣にかいていた。 俺は帰宅部だったから一緒に帰ることはできなかったけれど、ポスターとかで時雨くんの作品を見るのが楽しみだったのだ。 けど、 高校にはいってからは部活に入らず俺と同じ帰宅部になっていた。 だからたまに一緒に帰れる。 たまにというか毎度一緒に帰る約束しておいて女の子と帰ってしまうのだが、 「だって、飽きるんだもん。 」 ぽつり、としゃべった時雨くん。 俺は時雨くんの顔を見た。 なんでもない。 無表情。 つまんなそうな無表情。 「飽きる……?」 「俺、一度は興味持てるけど熱が早く冷めちゃうから」 冷たそうな青い瞳に見つめられる。 俺は思わず反らした。 「だから帰る女子が毎度変わるのか。 」 ごまかすようにそう言って、頭をかく。 「それはあんま関係ない。 」 「……そう。 」 「すぐできちゃうんだもん。 つまんねーの、なんの」 「……そう。 」 まぁ、つまらないんだろうか? なんでもすぐできてしまうのはやりがいがないからつまらないのだろうか? やれるからこそ楽しいのかと思っていた。 俺は努力しないとなんにもできないから こういう気持ちがわからない。 うまく返事ができない。 ただただ羨ましいとしか思えない。 「興味を持ちたいんだけど、頭から離れないものがずっとあるんだ。 」 なんだか、寂しそうな声だった。 頭から離れないものとはなんだろうか。 「なに。 頭から離れないものって。 」 「悟には教えない。 」 しー、と人差し指を口許においた。 「な、なんだよ……俺限定かよ。 」 俺は重いため息をついた。 「そーだよ。 悟限定。 」 時雨くんはころころ、と猫が鳴くように微かに笑った 「猫みたい。 」 ぽつりと誰かがそう言った。 時雨くんは青い瞳を見開いていた。 「え……?」 いや、俺しかいないんだけど。 「いや、だって時雨くん自由だし、勝手だし……」 「…………。 」 静かにうつむいて震える時雨くん。 俺は一瞬戸惑ったが、手を伸ばした。 「ちょっと寂しがり屋で怒りやすいし。 」 ふわふわした柔らかくて細い髪を撫でる。 「…………。 」 「たまに優しいし。 」 「猫ってたまに優しいもん?」 「んー、たまに?優しいんじゃないかな?」 「俺、たまに優しいの?」 「……ホントにたまぁぁっに優しいかも。 」 「じゃあ悟は犬だね。 」 なんだとぉ!? と言った感じで時雨くんになにかを言おうとする。 が、 手を捕まれ、引っ張られる。 そういえばずっと立っていた。 ここ俺んちなのに。 時雨くんはベッドに座ってたから俺は時雨くんに向かって倒れこんだ。 ぼさり、とベッドが沈む。 なんだか俺が上にいるので見た感じ平凡男に襲いかかれている美少年的なあかん犯罪臭が漂うのだが…… 耳の横では乾いた笑い声が聞こえた。 「ずっと、優しくしてね?」 世の女子がこんなことを言われてしまえばあまりの甘ったるい声に身も心も溶けちゃっただろう。 おまけによしよしと頭を撫でられたのだ。 俺は背筋がぞわりと凍りつく。 な、なんなのこの時雨くん! 誰この時雨くん。 偽物?? はっっ!? いや、ちがう! こんな夢幻なあっまぁーい時雨くんに騙されてはならない! あっぶねぇぇ……危うく忘れてしまうところだった。 「そういえば時雨くん……よくも俺と帰る約束を破ったな……」 「えー?なんのことー?」 「白々しい!ごまかしても無駄だ!お天道様が許してもこの俺が許さっ、ふぉごっ!?」 ないと言おうとした瞬間口を手で覆われた。 時雨くんの手が俺の口に当たったのにちょっとばかし申し訳なかったが勝手に塞いできたのは時雨くんだから俺は悪くないのだ。 悪いのは時雨くん。 俺は悪くない!断じて悪くないぞ! ぐるりっと突然視界が回る。 おえっ、気持ち悪っ! 「あはは、悟が許さなくて俺になんの損があるの?」 どうやら時雨くんが形勢逆転、 俺が上になっていた不思議な倒れ方がいつのまにか時雨くんが上になって俺にまたがっていた。 口元は強く手で捕まれて、苦しい。 鼻で息をすることはできるが鼻息が時雨くんのお手に当たってしまうので…… いやいや!なんで俺がそんなことをいちいち考えねばならないのだろうか。 人類皆平等、これがイケメンの力か。 無意識的に人権という存在を忘れさせる力が! って、違う違う! 「ふっ、うぅっー!ぅっっ!」 がしりと掴まれた手を引き剥がす。 しかし無情にも非力なインドア悟は正直時雨くんの手を引き剥がすことができなさそうだ。 なんなのだね!時雨くん! 俺に意見くらい言わせろ! 「別に悟に嫌われたって俺は構わないんだよ?」 ぴたり、と手を引き剥がす動きを止めた。 時雨くんを見つめる。 蒼く宝石みたいな、コバルトブルーの瞳に俺が映り込んでいた。 表情は、笑顔なのに目は全然笑ってなどいない。 「別に、構わないんだ。 」 ぽつり、と言った彼の一言に俺は胸をぐさりと刺されるような痛みが走る。 ゆっくりと手が離れる。 俺は口で息を吸った。 「話の論点をずらすんじゃありません!」 目が大きく見開かれる。 そして表情がなんとも言えないくらい歪み、 少し怖い。 少しだけだ。 ほんのちょっーと…… ちょっとだかんな。 睨まれたくらいで、俺は…… 「そうだね。 論点をずらしたかもゴメンね。 」 すぐに謝罪した時雨くん。 やけに素直で不気味だな。 というか、そんなに素直なら俺の上から降りてから謝罪してほしいというか……と言うのは自重して溜め息をつく。 「時雨くん。 」 「なに?」 寂しそうな目で見るなよ。 そんなの卑怯だ フェイスマジシャン時雨くん。 俺は怒ってるのにすぐにほだされる。 「時雨くんを俺は嫌いになれないんだ。 」 あー、だめだ。 堪えられない。 目から込み上げてくる熱さがこぼれ落ちる。 視界がぼやけてじわじわする。 時雨くんがどんな顔をしているのかわからない。 何泣いてるの。 気持ち悪い……みたいな顔かな? 「ずるいね、ほんと。 」 ずるいね、ほんと。 そう言って俺の目の縁から涙を拭き取る時雨くん。 だんだんとクリアになっていく視界に目を閉じたくなる。 「ずるい、時雨くんはずるい!……っ、なんで俺ばっか!俺ばっか……!」 こんなに寂しくならなきゃならないんだろう。 こんなに悲しくならなきゃならないんだろう。 いつも俺ばかりが時雨くんを引き留めて、 嫌われたくない。 嗚咽がこぼれ、 涙が止まらない、水に入っていた器に亀裂が入りこぼれ落ち、感情があふれでる。 頭のなかは楽しそうに笑う時雨くんの顔。 隣には俺じゃない綺麗な女の子。 俺を置いてくようにすれ違う二人。 羨ましいな…… ひとりで眺めた二つの背中。 振り返ってほしい。 俺に駆け寄ってきてほしい。 こんな惨めな気持ち。 胸を押さえてしゃがみこむ。 ぐらんぐらんと歪む光景に深呼吸をする、 胸から込み上げてくる感情を吐き出したくなる。 ここでは時雨くんを嫌悪するのに 彼が俺を見た瞬間、 俺にとって全部なかったものになった。 吐き出したくなった苦しみも自分の感じた惨めな思いも。 俺は必死なのに。 嫌われたくないから、俺は都合のいい人間になろうとしているのに。 時雨くんは…… 「嫌いになっていいよ。 」 って簡単に言うんだ。 「嫌いだ……嫌い。 時雨くんなんか嫌いだ!」 子供みたいに大泣きして、くだらない嘘ついて あやされるように頭を撫でられてバカみたいだ。 「うん。 」 「いつも、いっつもバカにしやがって……」 「だってバカ……あ、うん。 ごめんね」 「口先だけの謝罪!」 「……だって……ほんとに悟バカじゃん」 「なんだと!これでも成績表はオールBだぞ!」 「それを堂々と言えるとこがバカなんだけど」 ぐっ、と言葉がつまる。 時雨くんは呆れた目で俺を見た。 だんだんと眉を下げてきた。 「嫌いになっていいよ。 俺なんか……嫌いになった方がいいよ悟はバカだからきっと、自分が傷つくことがわからないと思うから」 「変なとこでネガティブになるなよ!そういうところが嫌い。 」 「うん……」 「急に怒られたとたんになんでそんなしおらしくするの、ほんと嫌い。 」 「うん。 」 「こんな自分だからってイケメンがそんなこと言うのとかほんとマジ嫌い!」 「うん。 」 「あと、あとは……あとは!」 「……うん」 「あとは……っ、あとは!っ、ぅ……ぁ」 ボロボロ涙をこぼして泣きわめいて時雨くんの肩にしがみついて、 これのどこが時雨くんを嫌いになっただなんて言えるんだろう。 「だめなんだ。 これ以上、なんにもないんだ。 」 嫌いになんかなれないんだ。 どれだけ俺が寂しくなっても 悲しくなっても、苦しくなっても。 その理由が時雨くんでも。 「悟、……ごめんね。 」 背中を撫でられ誤魔化される。 全部なかったことになる。 「でもさ、お前。 俺との約束も破ってるからな」 耳の横で響いた重い声。 爪をたてられた。 ぎぃーっと黒板を引っ掻くみたいに背中を爪でなぞられる。 服越しからで痛みはそれほどなかったが、 訳がわからないまま、体が震えた。 「え……しぐ……っ??」 「ひどいなぁ、悟。 忘れてるの?まぁ、いいんだよ忘れていても……俺は悟のこと好きだよ。 」 俺は悟のこと好きだよ、甘い声で耳元に囁く時雨くん。 ぞわり、と鳥肌がたつ。 それは歓喜とかそういう類いじゃなくて、 なんだか本能のようなもので怖いと感じた。 「時雨くん……」 横目で時雨くんを見た。 にこり、と笑い 頬にすり寄る時雨くん。 すべすべな肌と柔らかい髪が頬をくすぐり身じろぎする。 「あーぁ。 今部屋のなかには誰もいないね?」 残念がるような口調の時雨くん。 どういう意味なのか、 頭を回転させる。 俺はゾッとして、離れようと体を押した。 「時雨くん?」 「部屋のなかには二人しかいない。 だとしたらやることはひとつだよねぇぇ?」 嫌な予感がした。 がばりっ、と勢いよく起き上がり拳を振り上げる時雨くん。 待ってくれ。 待ってください。 ボフンっ、と布団が音をたてた。 しかし俺の左頬に絶対ヤバイ風がきた。 シュッていった。 シュッて変な音聞こえた。 「んじゃ、まぁとりあえずやろーぜ?」 ボキッボキと骨をならす時雨くん。 なにをやるつもりだ時雨くん。 ファイティングしませんよ? 悟の事務所的にちょっと許可できませんよ? 「やめて!やるならせめてその体をどけて!」 「あっははー、それなら自分で逃げればいいと思うよ?」 「それがっ!無理だから!ひぇぇ!やめてくれ!ファイティングはいくない!いくないよ時雨くん!」 「だめ。 許せない。 俺は悟を許さないからとりあえず殴られたくなかったらせいぜい記憶を取り戻すことだね? あ、でも通信簿がまさかのオールBのさとるんには無理かなぁ?」 人との約束は大切だ。 忘れるととんでもないことが待っている。 ズルい。 やはり時雨くんはずるい。 なんだよ!お前だって約束破ってるくせに! てかなんなんだよ 時雨くんとなんか約束したか俺。 あーしてそう。 付き合い長いから絶対なんかはしてる。 やな予感しかしない!!.

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怒ったかんな許さないかんな俺に逆らうとこうだかんな

SS投稿掲示板 オリジナルSS投稿掲示板 No. ぷいぷいーぷい、さっきから顔を見せてくれない、むぅ、四つあるおめめーを見せろよー、凄いケチだ、ケチケチワンワン。 俺の周りは二パターンだな、二パターン、素直で可愛いのと、素直じゃなくて可愛いのと、むぅ、あまり深く追求したらどっちみち同じじゃないかと、そんな結論、 難しい事を考える事が俺にはむずかしーよ、ぷすぷすぷすぷす、頭から煙がでそーだ。 「ぬなー!?」 『うざい、うっさい、ばーか』 手から離れたと思うと俺の影の中に飛び込む、そこは犬つーよりは蛇のような鋭い動作で、にゅるーってした、あれか、下半身ヘビだからそんな動きが可能なのか。 何だかこの山に来て色んな付属が増えてます、どれもこれも可愛いのでうろたえるよ、うん、渾沌が凄く怒りそうだ、浮気だーとかきゃんきゃん、おバカな俺でもわかるのだ!ちょい賢くなってる俺! そして子犬的な、おめめが四つの太歳が影にずぶずぶと沈んでから妙に体が軽い、どうしてだろう、何かしてくれてるのかな?地面からちょっぴり出てる小さなワンワン、教えてくれない感じ、ちょっぴり出てるヘビのしっぽが揺れる。 機嫌ちょーいいじゃん、仙人とか神様を虐めてた時もあんな感じによろこんでいたのかなー、可愛いから許されるってのは無いにしろ、俺は騙されちゃいそうだ、むぅ、ういうい友達。 『むっ、太郎!もしかしてあんたと……………さっき、コントンって言ってたわよね?……影の中にも微妙な残り香が…コントン、コントンってどんな字?』 おお、何だか話しかけてきてくれた、無視無視の方向かと思ってたけどなぁ、歩き出す、歩き出しながら、その質問はちょいむずいと、へこむ、だって俺は基本というか根本がおバカさんだからなぁ。 字を!って言われてもなー、難しい、うむむむむ渾沌、すぐに頭には浮かぶけど、書けとかどんな字かと聞かれても困る、さらにおバカがバレて怒られるぅ、うぅうぅ。 ボーディケア系と呼ぶとしよー、このなんつーか、こわいこわいけどかわいい系列を、こいつらに対抗する術は無いなぁー、正直にしらないと答えて、再度、ちゅーごくですよと付け加える。 犀犬に手を振りながら、おわかれー、ついてきちゃだめ、ここがお前たちのお家、また来ますーあれ、太歳はどしよ、どしよどしよ、どうしよう。 「ちゅーごくしんわーの最初のワンワンだけど、どした?……はっ、わんわんねっとーわく、そんなのがあるのか!ちゅーごく神話系にはっ!」 『……すごい、脳みそが腐っているのね』 「ほめられてないよなぁ、むぅ、腐ってるかどうかは中身を見ないとわかんないじゃんか!歩けてるし、喋れてるし、だいじょうぶ!で、どしたんだー?本当にワンワン知り合いか?」 『ふんっ、別にっ、成程、あいつの主になるような変人がいるなんてね、影に潜んでたらまずバレないと思うけど』 「ふへー、ワンワン知り合いじゃんか、さっきの犀犬も入れて、ワンワンにもみくちゃにされたい、もみもみくちゃくちゃー」 『キュィ!』 「うんうん雪火もなー、だいしょたいになったな、だいしょたいに!」 『…………べ、別に、あんたのことなんて、どうでもいいし、ただ、ここにいるより、人間の影の方が陰気があって、気持ちいいの!それだけなんだから!』 「うるせぇ!くちゃくゃー!」 『わふぅーっ、くぅん、はっ!?首の辺りをさするなー!しね、しね!ばかばかばかばかばか!」 隙を狙って影からすっぽりと取り出してくちゃくちゃした、顔を寄せてくしゃくしゃー、獣のにおいと照れた声、冷たいしっぽに、たまらない、でもするりと手から抜ける、また逃がした! 甘えたくぅんはいいな、もう一度隙あらばくちゃくちゃしてやるかんな!ふふ、俺の影にとても良いくちゃくちゃー空間が出来ました、隙あらば、隙あらば! しかし渾沌……つまりは混沌的なぐちゃーとした属性を感覚で掴みながら、てきとーに歩いているが中々合流できないなぁ、どこだ、新ワンワンもいいが、やっぱりワンワン的に俺の渾沌! 「ここここここここ、渾沌ーーーーーーー!うにあー!出てこいー!もふもふさせろー!」 しかしまあ、これだけ家族的なワンワンともきゅもきゅが増えたらかーさんに説明しないとな、勝手に家に入れても何も言わなさそうだけど、ちゃんとそこは! 家族が増えるのはよいことだー、かーさんもきっと喜んでくれる、と思う、すごくわかりにくいけど、俺にはわかる!なんか髪がフワフワと縦横無尽に揺れる姿が!あれは喜んでいる証!この照れ屋めー、照れ照れかーさんももふもふしてみよう。 「我輩をもふもふとは、詳しく聞こうか?」 真っ白い式服に橙色の髪がよく映える、うんうん、肩をがっつり掴まれて、ギリギリと、痛いなー、痛い、幼い姿なのにすごい力、幼いけど凄くおとななのかなーとか、そんな風に思って、思って…むぅぅぅ! 「ワンワンの姿じゃなくないかっ!?」 「タローが何に怒っているのか我輩には不明なのだが!」 赤色の切れ長の瞳、くーるびゅーてぃーな、むぅぅぅ、俺の使い魔で、大好きで大好きすぎる渾沌の姿がそこにあった、接近に一切気付かないって…俺ってよっぽどその、魔術的な才能がなくないか、俺の方が実は使い魔の方がしっくり来る。 あはははは、良く見てみると、目尻に涙が、ぎゅううううううとしたくなるから、ぎゅうううううとしてみた。 「ひさしぶり、かなぁ、どの程度でひさしびりって使うんだろう、寂しかったぞちくしょー、うん、もふもふ、くちゃくちゃ」 抱きしめて顔を寄せる、ワンワンだろうがなんであろうが可愛い渾沌、ほっぺたを寄せてぷにぷに、俺のほっぺたで、うりゃうりゃうりゃー、ほっぺた相撲。 怒られても困るもんな、でも会えてよかった、俺より頭一つ小さい姿をした渾沌はうぅぅうぅぅと泣きながら鳴きながら、もう、鳴いてるのか泣いてるのか、俺の顔は涙まみれ、しょっぱいや。 「こんとん?どした?」 「うぅぅぅぅぅ、うー」 じっと、下から睨まれる、頬がぷくーてして、怒ってます!って感じだ、もしかして心配してくれていたのだろうか?いや、この子の事だから心配しまくりだろうけど、俺がいけないなこれ、俺が駄目だ。 バカ、俺。 「渾沌、ほら、もう一緒、はなれないし、ずーっと一緒ー、ごめんなぁ、ごめんごめん、さっきも怒らせたのは俺だったし、俺そーーやって、渾沌を涙ポロポロにして、ごめんなぁ、むぅぅ、許してくれるか?」 「………たろ」 「おう」 「……つぅぅぅ、タロー、タロー、タロー、タローっ!」 「ほいさ、はいさ、うん、好きだよ、ともかく、大好きだ渾沌、やっぱちょっとでもはなれてたら駄目だもんな俺たち、そんな事も知らなかった俺はバカだ、可愛いよ渾沌、ずっと一緒にいよう、な」 「………」 こくこくと頷く、心配させてしまった、すごい罪悪感、胸がぎゅううって締め付けられる、反省中、反省はずっとだな、ずっと反省しないと駄目だ、それはずっと渾沌といることで、うん。 暫く抱き合っていると、胸がぺろぺろ舐められて、小さなピンクのそれが服の上から、ほーう、どーゆことかわからないから放っておいたら、顔にも、爪先立ちな渾沌、ぷるぷる、涙もちょいポロポロで顔面を舐められます。 どしたんだろ、まーきんぐ的なもんかなぁ、寂しい思いをさせたのでどうにでもしてください、ぺろぺろ、こしょばいー、でもかわいい、ワンワン姿でも人の姿でもむちゃかわいい。 俺の使い魔です。 「れろ……………タロー、好きと言っても、もう大好きでも、そんな次元じゃなくて、だからっ、離れるのは嫌だ!」 「うん、俺も嫌、やーですな、納得、もう、あんまりペロペロされて視界があれじゃね!うううううううう、甘んじて受けます」 「タロー、タロー」 寄り添う、お尻から出た犬のしっぽ的なのがゆれるー、さいじょうきゅーに機嫌が良い、俺の周りをクルクルと、普段は冷静で落ち着いた態度、それが崩壊、完全崩壊。 ぽりぽりと頬をかく、可愛い奴め!このやろうー、今夜は抱きついて寝てやるもんな!なんだこの決心、うむむむむ、俺も嬉しくてどうにかなってるや、うやー、やっぱりかわいいんだもんなぁ。 白い式服の袖がゆらゆらー踊る、俺も小躍りしたいよー、なんておバカだな俺、ふむぅ。 「ところで渾沌」 「タロー!」 会話にならない、やばいなぁ、この子を放置した自分め、俺め、ともかく喜びへの世界にどっぷり使っている渾沌は意思疎通が、ていや! 目の前を通るのを見計らって、げっと! 「ほらほら、おちつくのだー、この、かわいいから何でも許されると、うん、許されるな、渾沌ー、俺もだいすきだぞー、なー、このー」 「わっ、タロー、むぃー、く、くすぐったい、あはははは」 首を舐め返す、えっと、細くて白くて雪のようで、なんだっけ、ああ、ともかく、ともかくの話、俺も大好きで渾沌も大好きで今日も世の中は素敵だなーとかそんな話?いやいやいや。 「よし、だきだき抱きしめ時間おわりっ!」 「はっ、わ、我輩は何をっ!」 「いや、こう、お互いの愛を確認出来た所でー、やっと現実の世界に戻ってこれたー、幸せだったし、これからも一緒に永遠に生きてこう!と未来も希望が沢山だしな、よかったよかった」 「むぅぅ、タロー、我輩がどれだけ心配して、う、うぅ、し、ぐ、ま」 「シグマ?」 鼻づまり声でよくわかんないので聞き返す、しぐま、なんだか無駄にかっこいい響きだ、新必殺技でも俺がいない間に考えたのだろうか、それはちょい寂しい、そーゆーのは一緒に考えたいです! これはいけない、かーさんも交えて家族会議だなーと呑気に考えてたら、またぐしゅぐしゅした渾沌、鋭利な外見はまたも崩壊、むぅ、俺が何かしたんだろう多分!こらー!俺っ! 「えっと、えっと、どした、ううぅぅ、お、俺が何かしたんだよな?」 「ど、どれだけ我輩が心配したと!さみしいし、寂しい、淋しい、タローがいないと我輩は死ぬぞ!死んじゃうんだぞ!さみしくて!このこの!」 ぽかぽかぽかー、間抜けな効果音で胸板を叩かれる、うぅぅぅぅ、実は俺も渾沌がいないとさみしくて死んじゃうんだぞ!でも言ったら俺まで泣きだしそうなので言わない。 ぽかぽかにたいこーすべく、頭を優しくぽんぽんと叩く、ぽかぽんの効果音は俺たちの幸せな音だな、やむまでこのままー、あっ、終わった。 「ふぅぅぅぅぅ、色々あったような無かったような、渾沌この、可愛い奴め」 「そっちこそ、愛しい主め」 このままでは甘ったるいだけなので毒を互いに吐き出してみたのだけどなんか微妙なかんじー、どうしてだ、好きすぎると毒を吐くのもこんなのなのか! とりあえず、渾沌も落ち着いて俺も落ち着いて、ふぅ、深呼吸、もう怒ってないようだ、あれだなーー、これだと数日会わないだけで本当に渾沌はどうにかなりそうだ、気をつけよう! 気をつけよう事項が追加ー。 「しかし、渾沌、良くここがわかったなぁー」 「……使い魔としては当たり前の能力を使ったに過ぎないが、タロー」 意味も無く会話の途中に抱きついてくる、やばいな、もう、くっつきむし! それでもどうにか、引きずって歩く、渾沌がこんな風になることがあるとは、少し驚きだけど、たまには良いだろう、うんうん、甘えてくるのも可愛いのだから何も問題は無い。 「タロー、我輩を甘く見るで無い、全てお見通しだ、我輩は唯一無二のタローの下僕、全てタローの眼を通して見ていた」 「おーじゃあ、もう一匹友達になったワンワンが、隠れてても意味ないじゃん」 そういえば、さっきから姿を現さない、どしたんだろ、少し心配になる………そういえば、地面から出すなって怒ってたもんな、お腹がゴロゴロになったりしたのだろうか? あれだ、せいろがんー、無い…持って来てない。 「どうしよう、せいろがん無いや」 『って誰がお腹を壊してるって言ったのよ!!こう見えてもかつては木星滅神と言われた魔王よ!どうしてぽんぽんが痛く!』 「あっ、その言い方かわいいな」 『にゃぁああああ、この、この、うっさい、くたばれ!』 また叱られた、でも顔は影から出さずに声だけ、どうしてだろうか、渾沌は目を細めて俺の影をじーっと見つめる、全部見てたんなら知ってる筈だよな?どしたんだろうか。 「タロー、これまたとんでも無いのを影にしまい込んだな、階級の程は『水』、我輩と同列で同郷の魔王だぞ?」 「わんわんな」 「いや、タロー、ふむ、それが心を許すとはな」 「わんわんわんわんな、俺のわんわんへの大好きっぷりで影を犬小屋にしてもらいました、あっ、犬って失礼か!ワンワン小屋で!」 『……もういいわ、渾沌、貴方の方こそ、こんなに幼くて頭の回転が悪そうでしかも魔力も皆無で、何だか言動自体が砂糖菓子みたいなのと契約したわね』 「ふん、我輩の主はタローのみ、そこに含まれる理由など意味が無い!」 『へぇ、愛されてるじゃない……って、あの抱きしめてグルグル回ってた時点で何となく予想はできたけど』 「なにを、俺は太歳の事も大好きだ、今度お風呂一緒にはいろーな、ぷるぷるして水しぶきを飛ばすんだ!かわいいぞぜったい!」 『何の話よ!?』 「ふぅ、本来なら嫉妬の一つでもしようものだが、タローを守る術が増えるのは幸いと思うべきか、まったく、いつもいつも、相手を蕩けさせおって」 「ほめられた!?今ほめられたよな、うりゃー!やったー!」 『うっさいわよ、はぁ、いいわ、兎も角、太郎の影に住まわせてもらうから、何か会った時は呼ぶがいいわ、す、少しぐらい助けてあげないこともないことも、そのこともあのことも、ないんだから!』 「ごめん、わかりにくい、いいよー、可愛いわんわんをいつでも抱けるその契約!俺はするよ!」 「タローよ、中国神話の魔王に割と簡単な理由で契約するなどと、そこも愛しいのが困りようだ、我輩はもしかしてもう完璧に逆らう事は……むむ、だがそれもいいかと思うのも」 何だか大好きな存在に囲まれて幸せなので、これはもはや仲良し遠足と思う事にしよう、なんだかわんわん達は知り合いのようだけど、いいやー、仲良くなるだろうに、そのうちさ。 ふと足を止める、何だか景色が変わらなかったか……今、あれれ。 「あと、太歳が守ってくれるってさっき言ってくれて嬉しかったもんなぁ、さんきゅー」 『……も、もう!』 もうって何さ、なんだかわからないけど怒られて、でも俺は足を進めるのだった、渾沌は何だか少しだけ悩み顔、ふむ、同じ属性ってどんな意味だろう? でも、渾沌みたいな可愛い奴だったらいいな!もふもふしてくれるわ!.

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結婚した親友が音信不通に

怒ったかんな許さないかんな俺に逆らうとこうだかんな

DayByDay! 彰衛門「ひどいよぉおおお〜〜〜……みんながボクをいじめるんだよぉお〜〜〜……」 泣いてしまいました。 悠之慎「学ぶんだみさお……あれが人生に負けた男の姿だ」 みさお「痛い景色ですね」 彰衛門「イヤァ見ないでぇええーーーっ!!!学ばないでぇええーーーっ!!!」 悠之慎「よし元気になったな。 話進めるか」 みさお「そうですね」 彰衛門「……うわ……マジで涙出てきた」 聖ちゃんに慰められながら 体育座り ジャガー目潰し をしている彰衛門さんはひとまずほっときましょう。 どうせすぐに騒ぎ出すに決まってます。 みさお「でも驚きました。 悠之慎さん、結構人をからかうの好きなんですね」 悠之慎「彰利限定に近いものだけどな。 気心が知れたヤツが相手なら多少の無茶は言えるだろ?それと同じ感覚だ」 みさお「なるほど」 何処かスッキリした顔で志京さんに歩み寄る悠之慎さん。 その顔はなにやら『今まで振り回された借りは返した』っていう爽快感に満ちていた。 ……やっぱり仕返しだったんですね。 悠之慎「改めて。 俺は兇國日輪守悠之慎。 ここにどのような用で訪れた」 悠之慎「旅」 冥月 「ですね」 間違ってはいない。 これは後悔を消す旅なわけだし。 志京 「旅……?何を馬鹿な。 ここはまだ村とも呼べぬような場所だぞ。 旅人が腰を下ろすようなところではないだろう」 悠之慎「一言で言えば『手伝う』。 手助けさせてくれ」 志京 「無用だ。 私は私の力で村を作ってゆく」 冥月 「あの男の人達にはいい目で見られていないようですけど……」 志京 「今はそれで構わない。 精一杯やれば皆解ってくれる時が来る筈だ」 悠之慎「……ふむ。 なぁ、そこに数人混ざるくらいいいんじゃないか? 別にこの場に俺達の家も作ってくれとか言うわけじゃない。 ただ旅の証として村の発展を手伝いたいだけなんだ」 志京 「何度言われようと無用だ。 ここは私が空さまに任され、相馬と純之上に託された場所だ。 よそ者を介入させたことで事が起きては、申し訳が立たぬのだ」 悠之慎「……なるほど。 ますますいいな」 悠之慎さんは熱心に志京さんの言葉を聞いていた。 返事とするときは返事をしたし、おかしいと思う点にはきちんと言葉を挟んだ。 そこのところは流石というか、 わたしや彰衛門さんと話している時とは違って随分と真剣だ。 それで妙に納得してしまった自分が居た。 冥月 (……なんだ) 悠之慎さんは他人のことで真剣にはなるけど、砕けた態度になったりはしない。 信頼があればこそ、 怒ったり笑ったり馬鹿にしたりするっていうことをちゃんと知ってるんだ。 そういうところを考えると、悠之慎さんは人を見る目があるのかもしれない。 信頼するに値する人か、そうでない人を見分ける目というのを持っているのかもしれない。 志京 「……なにが言いたいんだ貴様」 悠之慎「俺はお前を信頼する、って言いたいんだ。 俺達はあの男どもとは違う。 女だからって差別するのは間違ってるし、お前には確かな意思がある。 だから信頼する。 多少の無茶も受け入れられる」 志京 「……どうだかな。 その信頼を証明できるものはあるのか?」 悠之慎「手伝うって言っただろ?気にそぐわなければ遠慮なく斬ってくれていい。 それだけの覚悟はあるぞ」 志京 「………」 悠之慎「………」 ふたりは互いの目を見て何かを思考する。 じっくりと瞳の奥の真相を探るように。 けどそれは思ったより早く終わって、志京が折れるという形で治まった。 志京 「……いいだろう。 ただし、不穏な行動に出たと知ったなら即刻切り捨てるぞ」 悠之慎「ああ。 その時は喜んで斬られるよ。 ……彰衛門が」 彰衛門「ちょちょちょちょぉーーーっ!!ちょっと待った何物騒なこと言ってんの! 今キミさらりとヒドイこと言わなかった!?俺が斬られるとかどうとか!」 悠之慎「すごいな、目の前の志京には届かなかったのに」 冥月 「よっ、彰衛門さん地獄耳!」 彰衛門「やかまっしぇぇえーーーっ!!!」 悠之慎「よーし、じゃあ早速どの辺りから発展させていくのか教えてくれ」 冥月 「そうですね、全てはそこからです」 彰衛門さんがさっきからこちらに向けて叫んでるけど無視です。 志京 「あ、ああ……あの男が何やら言っているが、いいのか?」 冥月 「気にしないでください、彼はただのカッパですから」 彰衛門「どうしてそこでカッパって言葉が出てくるのかね!」 悠之慎「おーカッコイイ、お前はカッコイイぞ〜」 彰衛門「せめてこっち見て話を聞いてから言おうよ!それ全然関係ないよ!?」 志京 「まず、ここなのだがな……」 冥月 「ふむふむ……あ、ここをこうすると綺麗にまとまりますね」 志京 「そ、そうか?」 冥月 「はい。 志京さん、指導者として申し分ないと思いますよ。 ね?悠之慎さん」 悠之慎「ああ。 あとは何かにつけて刀に手を掛けないことだな。 暴力じゃあ人は付いてこない」 志京 「う……」 確かに、一連の行動を見る限り……すぐに刀に手をかけてた。 もしあれを男の人達にもやっていたとしたら、人は付いてこないだろう。 彰衛門「無視!?無視ですか!?もういいよ!俺もう聖さんとずっと遊んでやるんだから! て、手伝ってって言ったって手伝ってやんないんだからなー!? ホレ聖!キミも何か言って差し上げなさい!」 聖 「パパを傷つける人は許さない……!」 志京 「傷つけるとは……何を言っているんだあの娘は。 大体、横の河童はなんだ」 冥月 「気にしないでください、ただの馬鹿です」 悠之慎「あーカッコイイ、彰衛門はカッコイイぞ〜」 彰衛門「だから人の話聞いてよマジで! そ、そうやって適当に言ってればいいとか思ってるんだろ! 知らないかんなー!?どうなったって知らないかんなー!!」 泣き叫ぶ彰衛門さんはまるで子供のようでした。 わたしはそんな彰衛門さんに向き直って一言。 冥月 「ハイ。 聖ちゃんとずっと一緒に居てあげてください。 その方が聖ちゃんは喜びますよ」 彰衛門「!!」 あ。 今……ザグシャアッ!って鋭い音が聞こえたような。 彰衛門「っ……!ヒドイよ……ボクは用無しだっていうんだな……!? 今までみんなのためにいろいろやってたのに、 ボクだけ仲間はずれにしようってんだな……!? うわぁああーーーーんみんなのバッキャロー!おたんちーーん!! ボクはボクで聖と夢と希望を栄えさせてやるーーーっ!!! 覚えてろチクショーーーーイッ!!」 それだけ言うと、彰衛門さんは聖ちゃんを抱きかかえて全力疾走。 けれど前方不注意か、地面に突き立ててあった支柱のようなものにゴシャアと衝突。 恥ずかしそうにしながらバタバタと逃走していった。 悠之慎「……どうしてあいつはこう、捨て台詞が三流なんだろうな……」 冥月 「彰衛門さんだからとしか言いようがありませんね」 悠之慎「……違いない」 あっさりと首肯する悠之慎さん。 ほんと容赦ないです。 悠之慎「じゃ、早速作業に取り掛かっていいのかな?」 志京 「ああ。 念のため監視はさせてもらうぞ。 悪く思うな」 悠之慎「いいって。 俺達がそれで納得したんだ、 そっちこそ『悪く思うな』とか言う必要はない。 根四門が蓄えていた金がある。 資金面の心配は要らない」 悠之慎「根四門って……」 冥月 「……あの、志京さん?もしかしてここ、根四門の村?」 志京 「なにを馬鹿な。 根四門の蓄えとは言ったが、既に根四門はこの世に居ない。 復興に手を貸してから一日目。 復興に手を貸してから三日目。 悠之慎「見ろ冥月!!見事な屋敷が完成したぞ! 怖いくらいに完璧だ……!うぉおおおっ!!日本万歳!昔万歳ーーーッ!!」 冥月 「ひとりなのにたった三日で屋敷作らないでください!! ていうかこんな大きな屋敷、誰に住ませる気ですか!」 悠之慎「え?……いや……誰?」 冥月 「……趣味に夢中になるなとは言いませんけどね……。 復興に手を貸してから十日目。 復興に手を貸してから十五日目。 よそ者を引き入れたのがそもそもじゃないか。 ありがてぇけど、だからって女が村長になるなんて俺は認めねぇ」 志京 「なっ……」 男1 「そうだそうだ!」 男2 「こうして住む場所も出来たんだ、 もうあんたが村長を名乗らなくてもいいじゃねぇか。 復興に手を貸してから十六日目。 志京 「……悠之慎、冥月……」 悠之慎「うん?どうした志京……って、なんか顔色悪くないか?」 冥月 「そういえば昨日からなんだか落ち込んでましたね。 どうかしたんですか?」 志京 「わたしは……」 悠之慎「……?」 志京 「……っ……い、いや……なんでもない。 作業を続けてくれ……」 悠之慎「ん……解った。 けどさ、悩み事があったら言ってくれよ。 復興に手を貸してから二十七日目。 志京 「な……に……?」 男12「だからぁ、何度も言わせんでくださいよ『元』村長。 あんたに付いていこうって輩はもう、ここには居ないんですわ。 村長に逆らう気か。 志京 「なっ……き、貴様ら……!!」 男10「器じゃなかったってことだよ、あんたは」 男9 「さっさとこの村から出て行け」 男12「それとも……この人数相手に抵抗してみるか?」 志京 「っ……く、そ……!」 男12「……そうそう、それでいいんだ。 さ、とっとと出ていきな。 悠之慎「……はぁ。 村に戻ると、 村の復興を何ひとつ手伝おうとしなかった男の人達が集まって話をしていた。 悠之慎「……?」 冥月 「なんでしょうね」 わたしと悠之慎さんは耳を澄まして、その話を聞いた。 既に悠之慎さんは男の中のひとりを殴り倒していた。 それはそうだ……わたしも今の悠之慎さんは直視したくない。 怖いくらいの殺気が、離れていても流れてくる。 それで逃げていればいいのに、男は周りの男達に攻撃を命じた。 他の人達も、それこそこんな男はほうっておいて逃げればよかったのに、 武器を手に駆け出した。 その場に居た人の辿る道なんて決まっていた。 ……戦いは、それこそ十秒もかからなかった。 いや、戦いと呼べたのかすら怪しい。 向かっていった人々は『速いだけの石突き』で気絶に迎えられ、数瞬で全滅。 意識があるのは、鼻を折られた男だけ。 自称・村長のその人だって、あまりの光景に失禁しているほどだった。 悠之慎「……志京は何処へ行った」 男12「ひっ……ひ、ひひ……ひぃい……!!」 悠之慎「三度目は無い。 志京は、何処へ行った」 男12「あ、あっ……あっちの、ああぁあ……あっちの、方へ……!!」 男が震える体で腕を動かし、ある方向を指差した。 悠之慎「……そうか。 冥月、行くぞ」 冥月 「え?でも……いいんですか?この村をこのままにして」 悠之慎「村長が変わってようがいまいが、ここは志京の思考の下に作られた村だ。 それを壊していいのは志京であって俺じゃない。 そうだろ?」 冥月 「……こういうところは素直に感心の域なんですけどねぇ」 悠之慎「どういう意味だよそれ」 冥月 「趣味に走ると見境無くなるところは感心できないって意味です」 悠之慎「………」 悠之慎さんは頭をカリカリと掻いて、ぶっきらぼうで適当な返事を返してきた。 そうしながら指差された方向へと歩き、わたしはそれを追う。 ……本当に、趣味に走って暴走さえしなければ付き合いやすい人なんですけどね……。 【ケース59:弓彰衛門/愛】 くたくたくたくた……。 彰衛門「うむうむ……今日も良い昼餉が味わえそうじゃわい……。 さ、光莉や……器を用意してくれんかね」 光莉 「うん」 サバイバル生活二十七日目。 じいやこと弓彰衛門と、聖こと光莉さんは山奥の山道近くでメシを炊いてました。 親友のもとを離れてから事実二十七日。 そろそろ悠之慎とみさおさんの存在が恋しくなりつつ……ありません。 じいやはこうして、光莉さんとともに仙人の在り方を探求するだけで十分なのですから。 光莉 「でもパパ、仙人さんって『霞』を食べて生きるんじゃあ……」 彰衛門「ほっほっほ、光莉や?じいや達はまだ仙人には至っておらぬのじゃ……。 じゃからの?別に霞を食わんでもいいのじゃよ」 光莉 「そうなんだ……でも霞ってどんな味なのかな」 彰衛門「さあのう……それしか食べないほどなんじゃ、 仙人にとってはどんなものよりも美味いに違いあるまいて」 光莉 「食べてみたいね」 彰衛門「そうじゃのう……」 サバイバルしてみて再確認したことは、 やはり光莉さんはじいやと二人きりの時じゃないとあまり喋らない。 喋ったとしてもたどたどしいというか、今のように元気っぽさが無い。 懐かれることは嬉しいことですけどね?このままでいいんかなぁとか思うわけですよ。 ……いやいやいかんいかん、子を信ずるは親の務めナリ。 じいやが光莉を信じんでなんとする。 彰衛門「さ、いただきましょうか」 光莉 「うん。 いただきます」 ぱんっと手を合わせて膳を取る。 ちなみに米はこの場で耕したものです。 種籾なら秋守の時代から持ってきたものがありましたしね。 彰衛門「おっほっほ、やはり米は釜で炊くに限るのぅ。 おこげが実に美味そうじゃわい」 光莉 「あ、パパ?わたしがよそるよ」 彰衛門「おおそうかい、すまないねぇ」 光莉 「わっ……えへへ……」 頭を撫でると、光莉さんはなんとも嬉しいような恥ずかしいような顔で真っ赤になった。 おお、光莉や……?いつまでもそうやって初々しいままで居ておくれ。 じゃけんど、巣立ちたい時になったら容赦なく巣立ってしまってもじいやは怒らん。 むしろ喜んで見送りましょう……それがじいやに出来る最後のことじゃろうて。 このような山奥に、一体誰ぞ……?」 光莉 「え?あ……」 光莉も気配を感じたのか、山の林の先を見る。 確か鳳翼志京とかいうおなごだった筈。 彰衛門「志京殿ではござらんか……斯様な山奥に何用で……」 疑問が沸き上がりましてござい。 しかもなにやら絶望感を漂わせております。 彰衛門「どれ……光莉や、ちとここで待っておりなさい。 じいやは志京殿を食に招いてくるでの……」 光莉 「え……?」 彰衛門「むお?」 光莉さんの顔が途端に曇る。 それはまるで、何かを邪魔されたような悲しそうな顔でした。 彰衛門「む……どうかしたのかね?」 光莉 「……う、ううん……なんでも……ないよ……」 彰衛門「……?」 解らん。 しかしここでボゥとしていても始まりません。 せめて食に招きましょう。 彰衛門「もし、そこの御方……」 拙者は立ち上がり、フラフラと歩く志京さんに近寄って小さく語りかけた。 志京 「………」 しかし返事は無い。 どこか虚ろな目で拙者を見るだけでござった。 彰衛門「見たところお疲れのご様子……よろしければ食をともに囲みませぬか。 しかしじいやはこれしきのことで引きはしません。 彰衛門「何があったのかは訊きはしません。 ですが、落ち着いてみれば見えるものもあるものですじゃ……。 こう見えて調理の腕は胸を張れるじいです……どうぞ、招かれてやってくだされ」 志京 「………」 彰衛門「体が温まりますぞ。 ……少し、ゆっくりと休んでみてはどうか」 志京 「…………すまない」 志京殿は再びすまないと口にした。 しかし今度のは拒絶の言葉ではなく、頂くという意味でのすまないだった。 パチパチ……パキ、パキ、ンッ…… 焚火が燃えていた。 その上にある鍋がくたくたと煮え、それを囲むようにしてじいやと光莉と志京殿が座る。 彰衛門「さ、お食べなさい。 大した持て成しも出来んが……温まっていってくだされ」 志京 「ああ……」 光莉 「………」 志京殿の分の膳をよそり、渡してやる。 それを受け取り、『すまない、いただく』と言った志京殿がそれを口にしてゆく。 じいやと光莉は既に食を始めていたため、毒入りとかの心配をされることもなかった。 それほど志京殿は思いつめていた。 志京 「……っ……く、ふ……」 彰衛門「……?おや……どうされた……」 しかしその志京殿が突然嗚咽を漏らし始めた。 鍋の汁を口にし、飲み下してからだ。 彰衛門「す、すまんのぅ……口に合わなんだか……?」 志京 「ち、がう……違うのだ……!っ……ただ……」 彰衛門「……む……?」 志京 「……暖かい……っ……暖かいんだ……この食事が……! このような食……っ……空さまと食を囲んで以来なのだ……っ!」 彰衛門「………」 やはりどうやら寺の方でなにかあったのかもしれません。 悠之慎が居ながら何故おなごが泣くような事態が……。 彰衛門「こんなものでよかったらいくらでも食していってくだされ……。 遠慮はいりませんですじゃ……」 志京 「……すまない……すまない……」 光莉 「………」 志京殿が泣きながら食を進める中、 何故か光莉さんだけが頬を膨らませてイジケておりました。 彰衛門「……もう、ゆかれるのですかな?」 志京 「……ああ。 貴様の言う通り少し落ち着くことが出来た。 少しひとりで考えてみようと思うのだ。 空さまや相馬や純之上……そして寺や村のことを」 彰衛門「そうですか……」 食が終わってしばらく。 誘ってはみたけど、志京殿はじいや達と共には行動しないと言ってきた。 こげに傷ついたおなごをひとりで行かせるのは心配なのですが…… 本人たっての希望ならば仕方ありません。 彰衛門「……それでしたらこれを持っておゆきなさい」 言って、竹の葉で包んだものと竹筒を渡す。 志京 「これは……?」 彰衛門「握り飯と水ですじゃ。 道中、何があるかは解らんじゃろう……せめてこれだけでも持っておゆきなさい」 志京 「し、しかし……食に招かれ、こんなものまで貰っては……」 彰衛門「これからのじいやと光莉の食が心配。 ……ですかな?」 志京 「……そうだ。 だからこれを貰うわけには……」 彰衛門「……おぬしはやさしいおなごじゃの。 安心めされい、じいやと光莉にはまだ蓄えがあるでの、 これしきのことで参ったりはせんよ」 志京 「しかし……」 彰衛門「大丈夫じゃ。 おぬしがひとりで行動しようと思うように、 じいやと光莉もそういった覚悟のもとに旅をしておるのです。 もしおぬしの覚悟がそれほどのものならば、何も言ってくださるな」 志京 「……すまない」 志京殿はまたすまないと言った。 しかしそれは、どこかにやさしさを含んだものだった。 じいやはそれにゆっくりと頷いて微笑むと、去ってゆく志京殿をゆったりと見送った。 …………さて。 彰衛門「これ、光莉や……さっきから何を拗ねておるのじゃ……」 光莉 「……パパ、楽しそうだった」 彰衛門「む?そうかね?」 光莉 「うん……わたしと居る時は、あんなにやさしい顔してくれなかったのに……」 彰衛門「やさしい顔って……」 してたんでしょうか……解りません。 彰衛門「ほっほっほ……光莉や?じいやは光莉と一緒に居るのは楽しいぞえ……? 光莉はじいやの自慢の娘じゃて、いじけることなどないのじゃよ」 光莉 「でも……」 彰衛門「志京殿に対してそういう顔になったのは、 恐らく夜華さんに似たなにかを感じたからじゃろうて。 己が弱いことを認めたくない何かを、志京殿も持っていたんじゃ。 ……どれ、それじゃあそろそろ行くかの」 光莉 「え……?行くって、何処に……?」 彰衛門「志京殿を追うんじゃ。 あのままでは食が無くていつかは餓死してしまう。 かつて夜華さんにやったように、今度は山の神となって彼女を生かすのじゃよ」 光莉 「………」 彰衛門「……光莉や。 じいやは光莉にやさしいだけの存在になれだなんて言わないよ。 けれどね、光莉……人と人とが助け合うことで何かが生まれること。 そして、その生まれる何かを共有することで感じられる気持ちを、 決して忘れてほしくはないのじゃ……」 光莉 「パパ……」 彰衛門「じいやは『絵の具』じゃ。 じいやだけではない、世界中のみんなが絵の具なのじゃ。 『人生』という絵画を懸命に描いてゆく、一色のみの絵の具じゃ。 じゃからこそ、ひとりでは生きられぬし、ひとりでは絵は描けぬ。 光莉……じいやはな、光莉には『ただの一色』になってほしくはないのじゃよ。 じいやのように『黒』にだけはなってはならん」 光莉 「なんで……?わたし、パパと一緒がいいよ……他の色なんて要らない……」 彰衛門「光莉……」 光莉の言葉に愕然とする。 娘が……娘が間違った道を進もうとしているのだ、当たり前だ。 彰衛門(時が……来たのやもしれんな……) 覚悟を決めよう。 それがきっと、光莉のためになると信じて。 およそ光莉の声とは思えないくらいの声が、その小さな口から放たれたのだ。 光莉 「あっ……」 けれどその事実に一番驚いていたのは光莉だった。 じいやはそんな光莉の頭にそっと手を乗せて口を開いた。 彰衛門「よいか光莉。 じいやは光莉が間違った道を通ろうとすればそれを止める。 自慢の娘なんじゃ、当然じゃろう」 光莉 「なんで……?どうして……?わたし、わたし……間違ってないよ……?」 彰衛門「よく聞くんじゃ光莉。 人はひとりでは生きてゆけないとはいえ、 だからといってひとりだけに頼れば生きていけるわけではないのじゃ。 確かにそれがじいやなら『生きていく』ことだけは出来るじゃろう」 光莉 「だったら……」 彰衛門「しかしな、光莉……それはただ『生きているだけ』じゃ。 なんの目的も持たず、流されるままの浮き草のような人生じゃ。 『弦月聖』としてではなく、他の誰が代わっても支障もないような人生なんじゃ。 ならばそれは……既に『弦月聖』の人生ではない、ただの『ヒト』の人生……。 わしはな、光莉。 自慢の娘である光莉にはそんな道に至ってほしくはない……」 光莉 「で、でも……だって……!」 彰衛門「言いたいことは解る……。 じゃがの、それは所詮『言いたいこと』に過ぎないんじゃよ……。 どれだけ光莉が叫ぼうと、それはもう『中身の無い義説』じゃ。 じいやと一緒ならばそれでいい、という考えでは…… もう光莉は人生という絵画を描けなくなってしまう……。 光莉なら……光莉ならば解ってくれると思ったのに……。 彰衛門「……黒はじいやだけでよいというのに……馬鹿者め……」 誰も居ない虚空に呟いた。 先ほどまでその場にあった穏やかな空気などは夢現だったかのように既に無く。

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